死にたがりティーンエイジを忘れない


「わたし、数学の偏差値が二十ぐらい足りないんですけど」

「しかし、国語と英語はいける。授業を聞いていないから、定期テストの点数は伸びないが、模擬試験では突き抜ける。底力があるんだ。やればできる。確実に」


やろうという気が、わたしにはない。

集中できない。

勉強している合間にも、不意に暗闇に引きずり込まれるように、終わりのない葛藤に絡め取られてしまう。

わたしは、ねっとりとした沼の底の生き物だ。

明るい場所とも美しい景色とも縁遠い。


鹿島先生がニヤリと笑った。


「おまえを見ていると、昔の自分を見ているみたいなんだ。私もよく授業から抜け出していた。私は図書館で本ばかり読んでいたんだが、おまえは学校にいないとき、何をしてる?」

「家にいます。家族の手前、申しわけなくて、息を潜めるようにしています。一応勉強したり、本を読んだりゲームをしたり」

「文章を書くだろう。小説を。文芸部誌に載っている」

「……はい」


気まずくて言葉の詰まるわたしに、鹿島先生は、思い掛けないことをサラリと言った。


「異世界のファンタジーを描いているのに、見てきたように書くんだな。世界に描き方が美しい。入学前のアンケートでは、世界史が楽しみだと書いていただろう? それも小説のためか?」


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