死にたがりティーンエイジを忘れない
四 高校時代後半:決別と難関校
恋の仕方なんて知らない
夏休み明けすぐに、文芸部誌の秋号の原稿の締め切りがあった。
わたしは竜也たちに宣言したとおり、ミネソタでのホームステイを舞台にした小さな恋物語を書いた。
日本人の中一の女の子が、ミネソタの同い年の男の子と恋をした。
言葉もろくに通じないのに、ふざけ合って笑い合って本当に楽しそうに恋をして、
フェアウェルパーティでは大泣きしながら、「ご縁が続きますように」と願いを込めて五円玉をキーホルダーにして贈っていた。
初稿を部長の尾崎や挿絵係の上田に確認してもらったときから、今回の短編は評判がよかった。
尾崎は鼻歌交じりで、ご機嫌だった。
「蒼が明るいトーンの話を書くのは珍しいけど、あたしはこういうのが読みたかったんだ。蒼の心理描写はえぐいじゃん? 畳み掛けてくるリズムに乗せられて、こっちも感情を引っ張り回される。
それが作用するのが暗い方向だけじゃなくて、ハッピーなのもいけるってのは貴重だよ」
尾崎の言葉にはうなずける。
文芸部誌に寄せられた作品はたいてい、「闇と病みが特殊な能力を引き出す。オレの眼帯を外そうとするな」みたいな雰囲気だ。
癖のあるものがカッコいいと誰もが考えていて、万人受けするものや正統派と呼ばれるものは誰も書こうとしない。
上田がホッとしていた。
「似たり寄ったりの挿絵にならざるを得なかったんだ。蒼さんの作品のおかげで、今回は違うものが描ける」