死にたがりティーンエイジを忘れない
彼は笑った。
「ごめんなさい、いきなり。ボクはあの店の常連なんです。響告大の教育学部の三年で、笹山といいます。きみは新入生? この四月からバイトに入りましたよね?」
「……そうですけど」
「やっぱり。響告大でしょう? 実はキャンパス内でも見掛けるんですよ。火曜の教育心理学、取ってますよね」
「はい」
「あの講義、ボクのゼミの教授が担当してるんですよ。そういうわけで、ボクも出席してて」
店内BGMが今週のヒットチャートを流している。
この店に来るようになって、以前よりも少しだけ流行がわかるようになった。
それに、ギターを再開して、本屋で音楽雑誌を買うようにもなった。
笹山と名乗った彼は、髪を軽く掻き上げながら足を踏み替えた。
わたしと笹山との距離が少し近付いた。
ふわっと、コロンか何かのかすかな匂いがした。
わたしは急に、自分の髪や服に付いた定食屋の油やソースの匂いが恥ずかしくなった。