死にたがりティーンエイジを忘れない
「きみ、夢飼いのマスターやバイトさんたちから、蒼ちゃんって呼ばれてるよね? ボクもそう呼ばせてもらっていいですか?」
「……どうぞ」
「夢飼いのバイトって、ホールに出る仕事とキッチンの仕事があるの? 蒼ちゃんはいつも奥にいるよね。ホールに出てくるときも、空いた皿を下げるとか、地味な仕事ばっかりで」
「それを希望したので」
「ちょっともったいないな。顔立ちも声もきれいなのに。ボクの仲間内でも、そういう評判ですよ」
胸がざわついて落ち着かない。
わたしはかぶりを振った。
嘘だ、と言いたかった。
ニキビの治らない顔には、まともな化粧もしていない。
パーカーとジーンズとスニーカーに、短い髪。
女らしくなんかなくていい。
男になりたいわけではないけれど、ナンパされる格好なんて興味もなくて、そんなガラでもなくて。
笹山は笑顔を崩さなかった。
「変な声の掛け方をして、驚かせたかな? すみません。でも、蒼ちゃんと話してみたかったんですよ。邪魔してごめんね。それじゃあ、また」
ひらひらと手を振って、笹山は洋画コーナーへ歩いていった。
それが笹山と話した最初の出来事だった。