死にたがりティーンエイジを忘れない
翌日のバイト中、キッチンとホールのつなぎの仕事をしていたら、小声で呼ばれた。
声のほうを向くと、笹山がわたしに手を軽く手を振った。
わたしはとりあえず小さく頭を下げた。
ホールを担当する先輩がその様子に気付いて、楽しそうにニマニマした。
「うちの店、バイトとお客さんが付き合っちゃうことがけっこう多いんだよ。マスターと常連さんが仲いいから、その流れとかでね」
「わたしには関係ないです」
「チャンスは逃しちゃダメだって。タイミングってものがあるんだから。彼氏ほしいって思うようになってから合コンしても、なかなかうまくいかないし」
先輩はため息をついた。
彼氏がほしい、彼氏がほしいと、先輩は口癖のように言っている。
わたしには、彼氏がいたら何がいいのか、その意味がわからない。
「蒼ちゃん、ホールの仕事、代わろうか?」
「キッチンがいいです」
「変わってるよねー。うちのキッチンの洗い物、油系が多くてベタベタでしょ。あたしは、できることならやりたくないよ」
「わたしは、人としゃべることになるホールのほうが苦手です」
「常連のお客さんから、若くてかわいい子を隠すな、とか言われるんだけど」
「お世辞だと思います」