死にたがりティーンエイジを忘れない
竜也と話をしたのは、あまり長い時間ではなかった。
竜也は同じ高校の人たちと一緒に来ていて、先生もいて、夜は全員で食事をする予定なんだそうだ。
響告大周辺に不案内な竜也を、駅まで送った。
乗るべき電車と降りるべき駅、降りてからどう歩けばいいかを竜也に教える。
竜也は何度もお礼を言って、最後に、ちょっと照れた顔で右手を差し出した。
「おれ、受験、頑張るんで。来年、絶対ここに受かるんで。そのときは、よろしくお願いします」
わたしも手が大きくて指が長いから、竜也の手もそう大きくは見えなかった。
でも、握手をすると、竜也の手は関節が大きくて厚みがあった。
男っぽいように見える自分の手が、本物の男の手と比べたら薄くて柔らかいんだと知った。
不思議な感じがした。
「じゃあ、また」
「合格発表の日は、ケータイ、すぐ出られるようにしててくださいね。連絡しますから」
「わかった」
改札を抜けて、竜也は人混みの中にまぎれていく。
わたしはきびすを返した。
バイトの時間がもうすぐだった。
さあ、ここからは日常だ。
竜也と話したのは、思いがけず楽しかった。
もとのとおり心を落ち着けて、毎日を平坦にやり過ごさなければ。