死にたがりティーンエイジを忘れない


問題が起こったのは、バイトが終わった後だ。


夢飼いの裏手の駐輪場に、笹山がいた。

まともな状態でないと、一目でわかった。

笹山の目は異様にギラギラしていた。

ひどく酔っているのかと、一瞬、思った。

でも、酒の匂いはしない。


「蒼、うちに来い」


押し殺した低い声に、酔っているのではないとわかった。

激怒しているのだとわかった。

いつだったかカフェでグラスを叩き割ったときと同じだ。


肩をつかまれたと思ったら、背中が壁に打ち付けられた。

息のかたまりが肺の中で弾けて、呼吸が止まる。


キスをされた。

いや、噛み付かれた。

唇に。

舌に。

歯を立てられた箇所はもともと、吐いてしまうせいで荒れていた。

笹山の口が離れていった後、口の中に血の味が広がった。


笹山がつばを吐いた。

血の味を消すように、何度も。


胸に痛みと圧迫感があった。

笹山の手がわたしの胸をつかんで押さえているせいだ。


頭が真っ白になって、その後は、手首をつかんで引っ張られる痛みのほかは覚えていない。

笹山の手は爪が伸びていて、わたしの腕にはいくつもの引っ掻き傷ができた。


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