死にたがりティーンエイジを忘れない
笹山の顔を見るのが怖かった。
わたしは目をそらしていた。
笹山の呼吸も語調も荒くなっていくのを、ただ固まったまま聞いていた。
手加減のない力で、ベッドの上に押さえ込まれた。
壊されて奪われることへの絶望感。
わたしの心は凍り付いて砕けた。
抵抗できなかった。
声すら上げられなかった。
他人の身に起きている出来事みたいに思えた。
でも、体の上を這い回る湿った手のひらや、ぬめぬめした舌を、確かに自分の肌の上で感じた。
体ごと引き裂かれるような痛みも、確かに自分のものだった。
長い長い長い時間、痛くて苦しくて重たくて。
泣き叫びたいのに声が出なくて、体を動かすこともできずにいた。
体が動いたのは、明け方だった。
まず、メガネを探して掛けた。
それから、重たい体を引きずるようにして服を着た。
笹山のほうはパジャマを着て眠っていた。
シャワーを浴びに行く音が、そういえば聞こえていた。
わたしは目を開けて、天井を眺め続けていたように思う。
睡眠を取ったという感覚は、少しもない。
ゴミ箱を見ると、血の色にまぎれて、避妊具がキレイに処理されて捨ててあった。
笹山が避妊をしたのは優しいからでも気配りがあるからでもないと、わたしは感じた。
用意周到さが不気味だった。
怖かった。
わたしは泣かなかった。
怒りも憎しみもなかった。
もちろん、喜びなんかあるわけなかった。
心を凍らせておかなければ、と身構えるまでもなく、死んでしまったかのように、何も感じなかった。
ただ、体の内側が傷だらけになったみたいで、痛かった。