死にたがりティーンエイジを忘れない


〈でもまあ、道はそんなふうに伸びてなかったわけで。おれ、入学前は、大学院で響告大に行きたいって思ってたけど、こっちの大学で最高におもしろい教授と出会っちゃった。この人んとこに行って、やってみたかった研究をやるよ〉

「もう将来のこととか考えてるの?」

〈そんなまじめなもんじゃねーよ。その教授、五十過ぎてんのに、研究の話をするときは小学生みたいなんだ。その楽しそうな様子見てたら、おれも一緒に楽しんでみたくなった。そんだけ」


雅樹はクスクス笑った。


楽しいって、何だろう?

わたし最近いつ笑ったっけ?

営業スマイルさえ、作ると頬が痛む。

中学のころも同じようなことがあって、全然笑わなかったから、頬の筋肉が動かなくなっていた。


それからすぐに雅樹は電話を切った。


〈変な話になって、ごめん。まあ、会えるときがあったら、会って飯でも食おう。それじゃ〉


わたしは、沈黙したケータイをしばらく見つめていた。

そして、雅樹からの着信履歴を選択した。


消去しますか? はい/いいえ。


はいを選んで、誰かからの着信やメールを消去するとき、むなしくなる。

むなしくて、自分がどうでもよくなって、頭の中がカッと真っ赤になって。


食べたい吐きたい壊れたい暴れたい。


衝動に勝てない。

食パンを丸ごと一斤とか、スーパーの弁当を三つとか、ファミリーパックのフライドチキンとか、それを胃に流し込みながらジュース一リットルとか。

異様な量を食べて食べて食べて、そして吐く。


大学の授業がなくて暇なぶん、食べて吐く時間が増えた。

苦しくてたまらない。

みじめで、顔を上げて歩けない。

吐いた後は体重計に乗る。

減ることはもうなくなってしまって、増えてさえいなければ、とりあえず自分を許しておける。


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