死にたがりティーンエイジを忘れない
わたしは笹山の目を見た。いつ以来のことか。
「あなたといても、つらいだけなんです。同じ映画を好きになれない。あなたは小説を読まない。音楽の趣味も違う。会話もほとんどない。何のために一緒の空間にいるのか、わからない」
「他人同士なんだから、趣味が違ったりするのは当たり前だろう。会話って、蒼はもともとあんまりしゃべらないじゃないか。そんな、ボクを責められても」
「わたしも、こんなふうでも、楽しいときは笑います。大学のクラスメイトとはしゃべります。でも、あなたの部屋では、そういうのが全然ない。やるのはセックスだけで」
店の照明は薄暗かった。
ひどく陰った笹山の顔は、おびえるようにこわばっていた。
「蒼がしゃべらないし笑わないから、抱き合う以外のコミュニケーションが取れなくて、どうしようもなくて」
「イヤだった。そういう目的でしか求められてないんだと思った。黙って、人形になってる気分だった」
「人形……ボクがただ自分のために蒼を抱いてると思ってたってこと? 違う。全然違う。性欲のためとかじゃなくて、いや、何ていうか……ボクは蒼にしか欲情しない。そういうの、蒼には伝わってなかった?」
「わかるわけない。暴力と何が違うんだろうって、いつも考えてた。その程度のものでしかなかった。キスも何もかも、最初から、全部」