死にたがりティーンエイジを忘れない


わたしは一人ではなかった。

夢飼いのマスターもバイト仲間も、わたしが笹山に違和感や危機感を持っていることを話したら、わかってくれた。

笹山がストーカーと化するかもしれないと、わたしもまわりも思っていたから、夢飼いはわたしにとってシェルターだった。


竜也は部活仲間を連れて、よく夢飼いに来てくれた。

一緒に食事をするという約束も、わたしがまかないを食べる席を弓道部のテーブルに用意してくれた。

恥ずかしくもあった。

でも、弓道部のマイペースな空気は案外、居心地がよかった。


笹山と別れた十一月が、精神的にも身体的にもいちばん壊れて沈んだ時期だったとすれば、

そこからゆっくりと時間をかけて、わたしは、まともな世界へとよじ登っていった。


弓道部のつながりから、笑い合える顔見知りが増えた。

竜也を含むカラオケ好きの人たちに誘われて、初めてオールのカラオケに行って、ふらふらになりながらファーストフードの朝ごはんを食べた。

ゲーセンにも映画にも誘ってもらって、一緒に遊んだ。


この関係を、友達と呼んでいいのかもしれない。

この感情を、楽しさだと認めていいのかもしれない。


声を上げて笑うことが、わたしは下手だ。

おもしろいと感じることがあっても、口元を覆って声を殺しながら笑う。


でも、そんなふうではあってもわたしが笑っていることに初めて気付いたとき、

竜也はじっとわたしを見て、泣き出しそうな目をした。


「そうやって笑ってる顔が、やっぱりいちばん好きです」


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