死にたがりティーンエイジを忘れない


これからここで語るのは、嘘の物語だ。

わたしの経験してきた人生に似ているかもしれないし似ていないかもしれない、事実の種明かしをする予定のない、嘘の物語だ。


主人公の名前を「蒼《あおい》」としよう。

思い出のある名前なんだ。

小学生のころに思い描いていた、人間のふりをして学校に通う人魚のストーリー。

その主人公の名前が、蒼だった。


そう、わたしは、小学生のころにはもう小説らしきものを書いていた。

人生でいちばん初めに完成させたのは、五歳のころ、年上のいとこと一緒に作った絵本だ。

うさぎのぬいぐるみを主人公にしたお話だった。


わたしは山奥で生まれ育った。

県内でもその一帯は独特な歴史を持っていて、山の神さまへの古い信仰がひっそりと残っていた。


親の仕事の都合で、幼いころのわたしは、そんな不思議な山奥を転々と引っ越しした。

ショッピングセンターがあるちょっと大きな町にも、テレビの電波が届かないくらいのいなかの村にも住んだ。


二年か三年で次の場所に引っ越すとわかっていたから、友達付き合いはあっさりしておこうと決めていた。

友達の家に遊びに行くことも、めったになかった。


一人っ子だし、寂しくないのかと親に訊かれることもあった。

わたしは「別に」と答えるだけだった。

確かに、小学校に上がったばかりのころは寂しがりやだったかもしれない。

でも、いつの間にか、寂しさという気持ちを忘れてしまった。


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