死にたがりティーンエイジを忘れない
のろのろと弁当を食べ終えたとき、雅樹が戻ってきた。
「蒼と同じクラスの男子に声かけられて、ちょっとしゃべってきたんだけど」
ゾクッとして、わたしは顔を上げた。
眉間に少ししわを寄せた雅樹は、まるで初めて会う人みたいだった。
大人びた表情。
怒っているわけではなく、でも、ひどくクールな印象というか。
たぶんだけど、と雅樹は言った。
「さっき話してきたそいつさ、蒼のこと好きなんだと思う。何かすっげー微妙な表情してて、おれが蒼とどういう関係なのか聞きたがってた」
「何て答えたの?」
「幼なじみ」
「って呼べるほど一緒にいたわけじゃないでしょ」
雅樹はわたしの言葉には応えずに、ため息をついて、短い髪をクシャクシャと掻いた。
「都会の空気ってやつ? いろいろ、進んでそうな人が多いなーって感じるんだけど」
ひとみは小首をかしげた。
「進んでそうって?」
「付き合っててどこまで行ってるとか、そういう話。よくそんなに露骨に話せるよなって。わざわざオープンキャンパスに来て、そんなんばっかしゃべってるグループとか、けっこうあってさ」
そういうグループのほうが琴野中では普通だ。
むしろ、純粋に高校の見学と体験に来たひとみと雅樹のほうが変わっている。
もしもわたしが木場山にいるままだったら、二人と一緒に、まじめにオープンキャンパスに参加しに来たんだろうか。
そして、都会の空気に違和感を覚えたんだろうか。
そんな「もしも」なんて、思い描いたって、どうしようもないけれど。
わたしは、今は琴野中の生徒だ。
違和感だらけの大嫌いな空気の中で生きなければならない、琴野中の異分子だ。