死にたがりティーンエイジを忘れない
もと野球部の菅野のボロボロのジャージには、アクリル絵の具がくっついている。
階段アートは、巨大な絵だ。
縦の長さは階段の高さの合計、横は階段の幅。
その巨大な一枚絵を完成させた後、階段の高さに合わせて絵を切って、一段ずつ貼り付けていく。
階段を正面から、少し離れて眺めたら、巨大な一枚絵がもとどおりつながって見える。
廊下側の窓を全開にした教室の中に、上田がいるのが見えた。
上田はわたしと目が合うと、チラッと微笑んで、うなずくような仕草をした。
わたしはそっぽを向いた。
「あのさ、蒼さん。文化祭の日、どうすんの? 約束ある? もし空いてるんだったら、一緒に回ってもらえないかなって思って」
視界の隅に、緊張して真っ赤な菅野の顔が映った。
わたしは、何とも感じなかった。
間の悪いやつだ、とだけ思った。
ほかの人が聞いているはずの場所でそんな誘いをかけるなんて、バカにしてくれと言っているようなものだ。
わたしは答えた。
「文化祭の日は理科室で仕事あるから、よそを見て回るつもりはない」
「あっ、そ、そっか。そうなんだ。じゃあさ、おれたちの階段アート、見て。
上田が下絵を描いたし、塗り方を教えてくれたりもするから、すげーんだよ。上田って、放送委員で声がいいってだけじゃなくて、美術部でもあって絵がうまくて」
そのくらい、知っている。
智絵が教えてくれたから。
智絵にとって、上田は憧れの存在だったんだから。