死にたがりティーンエイジを忘れない


わたしは、声を出さずに会釈だけして、その場を離れた。

とたんに、後ろからにぎやかな声が聞こえてきた。

わたしを文化祭に誘った菅野を盛大にからかう声だ。


バカバカしいけれど、階段アートの男子班は悪い雰囲気ではないんだな、と思った。

女子班のほうはどうなのか、別の企画はどうなのか、わたしは知らない。

興味もなかった。


翌日には、菅野がわたしを誘った話は、尾ひれがついた形で、クラスの噂になっていた。

わたしは、派手な女子からもフツーの女子からも同情された。


「あんな底辺のやつに誘われて、キモかったでしょ? あいつ、羞恥心がないから、サイテーだよね」


底辺って、何なんだろう?

菅野は、体が小さいから野球部では不利だったらしいけれど、部活は誰よりも熱心だったらしい。

成績はよくない。

でも、提出物はちゃんとしていて、部活を引退してからは意外に健闘しているらしい。


担任がそんな話をしていた。

理科室で打ち合わせをしたときに、担任は、クラスの人たちのことを雑談として挟んできたんだ。

わたしは、名前と顔が一致しない人が多くて、担任もそれを察していて、「こいつはわかる?」みたいなノリで。


菅野は、顔と名前がわかるうちの一人。

クラスの雰囲気からちょっと外れているおかげでわかるんだと思う。

上田も去年からそうだったけれど。


学校という世界そのものが嫌いなわたしにとって、文化祭を一緒に見て回ろうなんて誘いは、誰から受けたとしても筋違いなものに過ぎない。

菅野をキモいとは思わなかったけれど、バカだなあとは思った。

もっとちゃんと受け答えできる人を選びなよ、って。


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