透明なパレットに何色もの色を重ねて
「先生、白石さんが話があるそうです」

三時間目は、ポン太先生の社会の授業。


貴美枝は、先生が教室に入ってくるなり手を挙げて首を振り、私に合図を送った。


『席を替わりたいと言え』と。



「どうした?白石。体調でも悪いのか?」

クラスメイトの目が一斉に私の方を向く。
どうしよう。


早くしろと急かすような空気。
ざわざわとざわつき始める教室。


貴美枝は相変わらず私を睨みつけてるし。
チラッと横を見ると、望月くんはまだ机に伏せたままだった。


「せ、先生。望月くんが体調悪そうなので、ほ、保健室に連れて行ってあげてもいいですか?」


咄嗟に出た言葉。

先生は「そうか」と望月くんのところに来て彼を起こした。
今、貴美枝の顔を見るのは怖い。


「頼むな、白石」と先生に言われ、私は望月くんを連れて逃げるように保健室へと向かった。


「あの、ごめんね。巻き込んじゃって」


黙ったまま、私の後をついてくる望月くんに申し訳ない気持ちになって、保健室の前で振り返って謝った。


転入してきたばかりで、ただでさえ不安しかないだろう彼をいきなり自分の逃げ道に使ってしまった。


もしかしたら、望月くんから席を替えてほしいと言われるかもしれない。


「……別に。実際ちょっと頭、痛かったし。このまま保健室で寝れるなら、助かった」


「体調悪かったんだ。そっか。あっじゃあまた体調悪くなったらいつでも言ってね」



そう言って、彼とはそこでわかれ、憂鬱な気持ちのまま、私は一人重い足取りで教室へと戻った。
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