【極短】誰よりも可愛いオレの猫
「ん……あ?」
土曜の朝7時30分。
朝日の眩しさに目を覚ましたオレの隣で寝息を立てるのは……
「……いつ来たんだよ」
オレはため息混じりに呟く。
だけど、次第に湧き上がってきた嬉しさに勝手に表情が緩み出す。
肩よりも長い髪をすくってやると、瑞希はもぞもぞと動いて……オレの胸へと顔を埋める。
そんな可愛らしい仕草が堪らなく胸を締め付けてきて……オレは瑞希を抱き締めたい衝動に駆られながらベッドを降りる。
ダメなんだって。
今日は9時から部活があるんだから。
朝から瑞希といかがわしい事してる場合じゃねぇんだって。
……分かれよ。オレの身体。
そんな事を言い聞かせながらキッチンの冷蔵庫へと脚を運ぶ。
冷たい牛乳でも飲んで気分を一新させようとしていたオレの目に映ったのは……
冷蔵庫の貼り紙。
シンプルな部屋には不釣合いなカラフルなマグネットで留めてある貼り紙は、瑞希が昨日の夜書いたもんとしか考えられない。
……こんな乱雑に手でちぎった折込広告の裏に殴り書きなんて瑞希以外ありえない。
『樹へ。
お兄ちゃんの結婚式が終わってお母さん達もお兄ちゃんも忙しそうだったから帰ってきちゃった。泊めてね。
樹は部活でしょ? あたしの事は気にせず部活行って下さい。起こさなくていいよ』
「つまり起こすなって事か……って、オレんちだぞ、こら」
瑞希と付き合い始めて4ヶ月。
すっかりここを自分の家と思っている瑞希に思わず笑みがこぼれる。
『P・S 今日タイム計る日でしょ? 頑張ってね』
「……覚えてたのか」
たかがチラシの裏に書かれた走り書き。
そんなもんでやる気になるほど決して単純じゃないけど……
「頑張るか」
愛すべき猫のためなら仕方ない。
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