【極短】誰よりも可愛いオレの猫


デカイスポーツバックを肩に掛けて出かける準備を整えてから、もう一度瑞希の眠るベッドを覗く。


眠ってれば可愛いんだけどな。

丸まって眠る瑞希は本当に猫みたいで。


柔らかい茶色い髪も、あどけない表情も……

自分勝手なところも、わがままなところも、案外臆病なところも、すぐ散らかすところも、それを散らかしっぱなしでいるところも……って、やべ。悪口になってるし。


「……赤……黄色…てんとう虫……」

「……」


むにゃむにゃと何やら歌らしきものを口にする瑞希。

それが何を意味するのか、オレは考えをめぐらせて……さっきの瑞希のメモを思い出した。


てんとう虫のサンバか。

兄貴の結婚式ででも歌ったのか……ちょっと古いけど。


よくよく寝室を見回すと、瑞希が脱ぎ散らかしたらしいカラードレスやストッキングやストールがベッドへと続いていた。


「勘弁しろよ……つぅか、こいつ今何着てんだよ」


ドクンと騒ぎ出した心臓に、オレは気持ちを抑えられずにベッドの布団を捲る。

別に恋人同士なんだからやましくねぇし。

いや、やましくたって別に何の問題も……


「……こいつ、また」


オレの期待は、瑞希の纏っているジャージにへなへなとしぼんでいく。

中学から着続けているらしきジャージ。

膝も破けそうだし、もう捨てろって何度も言ってるのにそんなオレに聞く耳なんか持たずに着続けてるジャージ。


なんだか裏切られた気分に、オレは瑞希のおでこにデコピンを一発。


それを受けた瑞希は「う~……」と唸って、やっと開けた目でオレを見た。


「……なに? 起こさないでって言ったじゃん~……」

「何じゃねぇよ。服、ちゃんとしとかねぇとシワになるぞっ」

「うん……よろしく。……行ってらっしゃい……」


最後は眠りにつきながら言った瑞希。

オレはもう一発デコピンしてやろうと思いつつも時計が気になって、家を後にする。

……瑞希の服をちゃんとハンガーに掛けて。


本当に世話のやける女王猫様だ。


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