【極短】誰よりも可愛いオレの猫


眩しい日差しは目を細めないと見上げられないほど。

絶好の天気に恵まれて、オレはトラックの隅っこでストレッチを始める。


茶色いトラック。

ずっと走りたくて見ていたトラックを再び走り出したのは、4ヶ月前。

……瑞希と出合ったすぐ後だった。


変なプライドと、空いてしまったブランクに思いきれずにいたオレの背中を押してくれたのが瑞希だった。

それは決して、絶対にそんな大した言葉じゃなかったハズなのに……

ずっと踏み出せなかったオレの一歩を踏み出させた。


何を言われるかより、誰に言われるかが大事とか……まぁ、そんなんじゃねぇけど。

それに近いモンがあったのかもしれない。

言葉じゃ表せない、何らかの力が働いたのかもしれない。


トラック中央に目を向けると、もうタイム測定の準備が着々と進められていて。

さすがに1年もブランクが空いたオレを嫌な緊張感が包み込む。


数ヶ月後に控えた大きな大会。

その大会のメンバー入りを掛けたタイム測定。

普段は緊張だとか、怖気づいたりはしないオレでもドキドキする心臓を嫌なほどに感じ取っていた。


陸上に復帰してから初めての大会。

正直、今回のタイムに掛けるモンは大きい。


走れなかった1年間、自分なりに自己練習はしてきたつもりでも……やっぱりそこまでの自信はなく、オレは大きく吸った息を吐き出す。

まるでため息に聞こえてしまった深呼吸に呆れてから、準備の出来た身体を起き上がらせた。


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