年下ワンコ幼なじみが可愛すぎてツラいです。
「ねぇ、空?どうしたの?手痛いよ」
僕は黙ったまま海美ちゃんの手首あたりを握り、彼女が転ばない程度に強く引っ張って歩いた。
家の近くの公園があったので、2人で話すには丁度良いと思い、角を曲がった。
公園の真ん中あたりまで来ると、僕は彼女の腕を握ったまま振り返った。
「空?どうした「楽しかった?」
海美ちゃんが口を開いたのに被せてキツくあたってしまった。彼女は分からない、といった様子で困った顔をしている。
こんなふうに言うつもりはなかったのに。愛する人をも傷つけてしまう自分に嫌気がさした。
「黒田くん、っていう人と一緒に歌えて、楽しかった?」
「楽しかった……というか、一緒にソロの所を歌うから練習してたんだよ」
「それでも!!!」
僕が急に大きい声を出したので、海美ちゃんはビクッとした。
「すごく苦しいんだ。僕の知らないところで海美ちゃんはたくさんの友達と思い出を作って、他の男と仲良くなって恋をしてる。
…………僕があと2年生まれるのが早かったら、って何度も思ったよ。嫉妬に狂い過ぎて自分が嫌になるし、こんな僕になんて海美ちゃんはきっと目を向けてくれない。
……どうして?僕は本当に海美ちゃんのことを想っているのに。海美ちゃんは僕じゃなくて黒田くんを選ぶの?」
本当につらくて苦しくて。視界が少しぼやけた。
「選ぶなんて……空は大事な弟だし、黒田くんは私のクラスメイトだし」
「 僕は弟じゃない!! 」
ああ、そうか。どれだけ想っても同じように返ってこないのは、大きさは等しくても方向の違うベクトルだったからなのか。
ぐっと腕を引いて海美ちゃんを引き寄せ、自分の唇を彼女のそれに合わせた。
なんて甘美なんだろう。番との口づけは、それだけでお腹の下の方を熱くさせる。
思わず夢中になって舌を絡めていると、海美ちゃんが「んぅ…」とか声を出すから、本当に可愛くて愛しくて、益々止まらなくなった。
だんだん海美ちゃんの力が抜けていってズルズルと下がっていくので、腰を支えて、最後に1番深い口づけを与えてから惜しむように唇を離した。
パシンッ…………
海美ちゃんに左頬を叩かれた。
僕の腕から力が抜けた一瞬のうちに、僕の胸を両腕で押しのけ、走り去って行った。
海美ちゃんの去り際の顔、可愛かったなぁ。
耳まで真っ赤にして、涙目で上目遣い、さらにそれで睨みつける(全く怖くない)んだから。
傷つけてしまったということに心は痛んだが、不思議と後悔はなかった。
だってきっと、あれが海美ちゃんにとってファーストキスだろうからね。
どうせ結ばれないのなら、せめてキスをする時に必ず僕のことを思い出してほしい。なんて……
つまらない嘘までついて。