年下ワンコ幼なじみが可愛すぎてツラいです。

「本当にここまでで良いの?」

今私と有紗は、塾がある大通りへ通ずる道と、私の家がある方の道に別れているT字路にいる。

「うん、あと少し歩いたら家だし、危ないって思ったら走るから。」

「うーーーー。めっちゃ不安だけど、そろそろ遅れそうだから行くね。本当に気を付けて。」

「わかってるよ。本当にありがとう!また明日ね」


有紗をこれ以上不安にさせないよう、できる限り笑顔で別れた。









自宅近くの公園の前を通りかかったとき、



パシャッ



カメラのシャッターを切るような音がした。

辺りを見回すが、暗くてよく見えない。



ーーー私はすぐに走り出した。

心做しか、足がとても重く感じる。自分の足音とは別に、もう一つ走っている音が聞こえた。壁に音が反射しているのとは少し違う音。

口の中がカラカラになって、呼吸が乱れる。

喉の奥で血の味がする。


ーーー助けて、助けてーーー



自宅が見えた。


走りながら、鞄の中から鍵を探す。ーーーあった。

扉の前に着くと、すぐさま鍵を開けて中に入り、また鍵を閉めた。


「はぁ、はぁ、はぁ…………ただいま……」


返事はない。
玄関の明かりはついているが、リビングの明かりはついていない。


リビングに入って電気を付けると、食卓の上に今日の晩ご飯代わりか、袋に入ったコンビニ弁当と、『お母さんは急に仕事が入りました。お父さんは帰りが遅くなるそうです。先にご飯食べたりしててください。戸締りしっかりね。』と書かれたメモが置かれていた。


とりあえず部屋に荷物を置き、レンジで弁当を温めて食べ始めた。


……親子3人暮らしなので、私以外誰もいない我が家はしんと静まりかえっていて、不気味だ。テレビを付けてみたが、テレビの中から笑い声がしても恐怖は拭えない。


食べ終わって容器を捨てると、お風呂はシャワーで済ませた。

……棚の影、洗面台の暗がり、トイレなど、普段は気にしないところまで怖くなってくる。

現在の時刻は20時半をまわったところ。両親は帰ってくる感じがしない。


ついに私は、スマホに手を伸ばした。

連絡先は、空。


『空、今いい?』

既読がつくまでの時間がとても長く感じる。

『どうした?』

ぽよん、と音がして、ロック画面に表示された。すぐに起動させて、返事を打った。

『今からそっち行ったらだめ?』

『なんで』

『さっき誰かにつけられて、今家に1人で、もうむり』

気が動転していて、変な文章になってしまった。

『すぐ行くから待ってて』

その返事が来てから1分経たずに家のインターホンが鳴った。



一応モニター画面を見て、本当に空が来たか確認して、玄関へ向かった。

鍵を開ける。

ゆっくり開けると、気まずそうな空。

「え、うみちゃん、大丈夫!?」

一転して目を丸くして駆け寄ってきた。
そして、私の頬にこわごわと手を伸ばし、涙を拭った。

…………え、涙?

どうやら空の顔を見て安心したようで、泣きじゃくってしまった。

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