昔語り~狐の嫁入り~
嫁入り行列はそこでピタリと止まった。
よくみると、自分たちの遙か前方に人だかりがある。そして、そちらには錚々とした雰囲気を持つ男が、囲まれる様にしてじっとこちらを見つめていた。
「…あの方がギンサギ姉様の花婿になるのよ」
 早夜が弥剣の耳元にそっと囁いた。
「…へえ…」
“シャアン…シャン、シャン…”
鈴の音が聞こえ始めた。弥剣は、そちらの方へ視線を向ける。
「金と銀の舞いが始まるわ」
早夜は短い着物の裾を少しからげると、近くの岩に座った。弥剣もそれに習い、そこに座る。
「なに? その金と銀って」
早夜は笑むと、可愛らしげに小さく傾げてみせて弥剣に答えた。
「金はお日様を意味するの。銀は夜空に輝く月を意味しているわ」
そういって、前方を示した。示した先には双方から選出された踊り子がそれぞれの衣装を纏い、鈴を鳴らしながら懸命に踊り始めた。
花婿の方の踊り手は男性で炎の様な赤い着物と朱色に塗られた鈴を足のくるぶしにつけ、動作の激しい力強い踊りを繰り返す。
反対に弥剣達の方からは女性の踊り手が出た。
銀の鈴を足に付け、稲穂色の着物を纏い流れる様な静かな踊りは回りの者たちからため息が漏れるほどの見事なもので、思わずその優雅な踊りに視線を奪われる。
対照的な二つの“動”と“静”の踊りが折り重なり、反発しあう様を描きながら一つの調和を生み出した。
炎の様に舞い、力強く大地を蹴る。
それに合わせて不思議な形を形成させた木の輪を飾りにする太鼓が“ドドンドドン”と辺りに響いた。
そして、入れ代わりたちかわり繊細な弦を弾く音が聞こえてくる。
楽器は、竹で作った横笛と一弦の琴だ。
流れる水の様な緩やかな動きに纏いつかせたふわふわとした細い布が鈴の音に乗ってゆったりと揺れる。
「…綺麗だなぁ…俺、今まで親戚の嫁入りを何度か見た事あるけれど、こんなに変わったのは初めてだよ」
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