昔語り~狐の嫁入り~
早夜は弥剣の隣に座って同じように見とれていたが、彼の言いように首を傾げた。
「変?」
「変さ! だって、結婚式じゃあこんな踊りなんてしないよ。普通」
「……」
「それに、よくみたらおかしいよ?」
弥剣は花婿と花嫁…そしてそれらを囲む人達をゆっくり見渡した。その様子を見る早夜の表情は、無機質の様な固い表情である。
「…何がおかしいの?」
「だってそうだろ?…この踊り…まるで皆が雨を待っている様だ」
弥剣が確信を持ってそう断言した時、耳元でボソリと声がした。
「…そなたの出番じゃ。」
「えっ?」
びっくりして振り返ると、老夫婦がにこやかな様子で弥剣の側に立っていた。
老婦人が視線である方向を示し、弥剣がそれを追うと、そこには花嫁が手招いて彼を呼んでいる。
「…弥剣さん。はようギンサギの元へ行っておくんなましな」
「えっ…何で?…分かったよ、行くから…ああ。うん」
弥剣は老夫婦に背を押され、早夜の方を振り返りながら花嫁の方へ歩いていった。
-そなたが選んだ者はその者か?-
「はい」
-我が選んだ者はあの者だ-
「…一族の者でありまするか?」
-そうだ。…もう余り残っていないゆえにな…-
ギンサギと呼ばれる美しい花嫁は、弥剣の手を取って花婿のいる場所まで歩いていった。花婿の方もその手に一人の少女を引いていた。
「…名…は何という?」
ギンサギの花婿となるその男の人は、とても優しげな容貌をしていた。弥剣は覗き込まれる様にしてそう言われ、自分が何故ここに呼ばれたかの疑問を口にする前に素直に答えていた。
「…“狭間 弥剣”」
「はざまみつるぎ…か。いい名前だな?私の名前は“榊”と書いてさかきといい、この山の神の二千三百四十五番目の息子だ。今日は、私とギンサギの祝言に来てくれて有り難う。とても…光栄に思う」
 榊は自分が連れてきた少女をギンサギと弥剣に紹介した。
「私の末の妹“桜”だ。仲良くしてやってくれ」
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