昔語り~狐の嫁入り~
「見て…ギンサギ姉様達を」
指で示した方向に、淡く発光しながら榊とギンサギが、お互いを抱きしめ合って立っていた。
むせんばかりの花の香りと、数千数万の小さな鈴を打ち鳴らした音が辺りを押し包み、反響しながらそこに集まった人々の耳に厳かに届いてくる。
弥剣達の見守る中、二人の身体が発光しはじめた。
幾種類もの花びらが一斉に舞い、それに応呼するかの様に風でそれぞれの純白の衣が絡まり合い、なびいた。
そして、二人の新郎新婦の姿は、皆の見守る中…徐々に変貌していった。
「あっ…」
驚きの余り、弥剣はかすれた様な声を漏らす。
弥剣に寄り添う様に立っていた桜は、甘い香りを放つ不思議な光を伴った涙を零し、視線をその場からそらした。
早夜は、その光景をじっと見据え、そして弥剣の着物の裾をきゅっと握りしめる。
「…姉様達は夫婦となってこの山の“心”になるの。私達の心の支えとして、安らぎとして…この地に根を下ろすのだわ」
小さな小さな名も知らない木。
まだ若い木だけれど、それでも何か新しい“力”を感じさせる様なそんな木が、光に包まれ消えていった二人の後に残された。
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