シンデレラは騙されない
「麻里といると落ち着くんだよな。
こうやってベンチに座ってるだけなのに、心が満足してあくびをしてる。
家族にもこんな風に感じる事はなかったのに、本当不思議だよ」
凛様の右手はずっと私の左手を握っている。
指を絡め合い、この賑やかな人混みの中、絡め合う指先だけは親密さで息苦しいくらい。
「今夜、ずっと、俺と一緒にいてほしい。
……いい?」
しばらく間をおいて、私は隣に座る凛様の横顔を見た。
私の視線を感じた凛様も、私の方を優しく見る。
「………」
自分の心の奥においやった感情は、中々素直になってくれない。
何か言いたくて声を出そうとしても、その言葉は声にならずにまた胸の奥に押し戻される。
そんな苦しそうな私を見て、凛様は力強く私の肩を引き寄せた。
「今日は俺の言う事を聞いて…
今日だけでいいから…
もういい大人なんだ、俺達は。
人に言えない秘密が一個や二個あっても誰も咎めやしないよ。
もし、咎める人間がいるのなら、俺がそいつを殺す…」