シンデレラは騙されない


私は凛様の顔をチラッと見た。
凛様の横顔は、今まで見た事がないほどに苦悩に満ちている。

「悠馬さん、俺は俺のしたいように生きる。
宣戦布告と思うのであれば、どうぞそう思って下さい。

俺は麻里と結婚します。
その事実と二人の未来は、もう決まってる事なので」

凛様はそう言うと、優しく私の肩を抱き寄せた。

「終わったら迎えに来るから、必ず連絡して。
近くで待ってるから」

そして、凛様は私の背中をゆっくりと押した。
ちゃんと俺の胸に帰って来るんだぞって、自信と哀願を顔に覗かせながら。

凛様は一度も振り返らずにいなくなった。
私は居心地の悪さに胸の鼓動が治まらない。

「凛太朗君って、魅力的だよな」

平塚さんはそう言いながら、さりげなく私の腰に手を回す。

「もう時間だから、行こうか」

平塚さんは大人の男性…
どんな時にも動じない強さを持っている。
でも、私は、強さよりも優しさの中でもがいている凛様が好き。
それは決して変わる事はない。




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