シンデレラは騙されない


「麻里ちゃん、そこの発注書を入力してくれる?」

主任の大木さんが、私の状況も見ずにそう頼んでくる。

「主任、私、今日、五時から面接が入ってるんですけど」

何度も言ったよね?
これで三回目だし…

ここは下着の老舗メーカーHAKASEの促進販売部の発注係。
ネット注文は専門のパートさんが受注し発送まで行ってくれるけれど、百貨店やメーカー持ちのショップへの受注はここの係の仕事。

大手の下着メーカーに就職できただけで有り難い事なのだけど、とてつもなく地味な仕事な上、いつも何かと忙しい。
私は腕時計を見て、もう時間がない事に慌て始める。

「主任、ごめんなさい。
ちょっと、8階の会長室まで行ってきます」

私はきりが良いところで仕事をやめ、急いでエレベーターホールへ向かった。

銀座の一等地に自社ビルを構える我が会社は、創立70年の歴史と知恵と人材で、バブル崩壊などの不況にも負けず確固たる地位を守っている。





< 2 / 290 >

この作品をシェア

pagetop