シンデレラは騙されない
相変わらず、窮屈


最近、つくづく日本へ帰りたいと思う。
心身ともに疲れ果てた俺に、この東南アジア特有の湿気の多い暑さは死ぬほどつらい。

麻里と連絡が取れなくなって一週間。
生きてるのか死んでるのか分からないような生活を送っている。
でも、不思議と、麻里が離れた気がしないんだ。
心が離れたわけじゃない。
くだらない我が家の事情で、俺達は引き離された。

麻里のスマホが全く繋がらなくなった二日後、俺は麻里の職場に電話して、麻里を直接呼び出した。

「あの、すみません…
詳しい事は言えないのですが、麻木は退職しました」

「いつですか?」」

係長の役がついたその男は、俺が斉木凛太朗と知っているのか、しどろもどろではっきりと物を言わない。

「誰かに口止めされてる?」

俺はフランクに彼に聞いてみた。
その口調が意外だったのか、その係長はぼそぼそと話し始める。

「退職は昨日です。
その前日は普通に仕事に来てました。
会長宅でアルバイトをしていたので、何かをやらかしたのでは?と心配してます」

俺はとりあえずありがとうと言った。
麻里の退職の裏事情は、君たちの耳に入れる事はできないと心の中で詫びながら。




< 240 / 290 >

この作品をシェア

pagetop