シンデレラは騙されない
俺はその日の晩に、義兄さんのスマホに電話を入れた。
綾や母親とは話したくなかった。
今までだってこんな事の繰り返しで、俺の心からの訴えに二人は耳を貸そうとしない。
この斉木家の長男に生まれた事がどんなに素晴らしい事か、そんなしょうもない事にしがみついている間は、斉木家の人間とどれだけ話をしても平行線なのは分かっていた。
義兄さんは、ある意味、中立で考え方に柔軟性がある。
俺は何が起きたのかだけ教えてもらえればそれでいいと、そう思っていた。
どの道、麻里は迎えに行く。
その時は、この斉木家と縁を切る事になると思うけれど…
「凛太朗君か…?」
義兄さんは俺からの電話を予想していたのか、意外に声は落ち着いていた。
「麻里ちゃんの事だろ?」
何なんだ?
俺からの直接の電話に慌てる事も怯える事もないなんて。
「麻里に何があったんですか?」
俺の口調は氷のように冷たい。
このぬるま湯で底なし沼の我が家に、以前にも増して苛立ちを覚えながら。
「麻里ちゃんは出て行ったよ…」