シンデレラは騙されない


「どれくらい必要なんだ?
麻里がそこまでして働くのは、金のためだろ?」

私は凛様の優しい笑顔に裏切られた気がした。
凛様は本当に世間知らずで、お坊ちゃまで、お金は湯水のように湧いてくるものだと思っている。

でも、だからといって、それについて話す元気はない。
私は、事実、お金のためにこの家に居るのだから。

「はい、お金のためです…
でも、恥ずかしいなんてこれっぽっちも思っていません。
大好きな家族を幸せにする事が、私のささやかな夢なので…」

泣きそうだ。
私の過去を知っている人に、本当はこんな姿を見られたくなかった。

凛様は私の話を聞きながら、窓から見える青い空を眺めている。
凛様の気持ちは簡単に想像がつくけれど、今は深く考えたくなかった。

凛様はゆっくりと私の方へ振り返り、切なさと温かみの入り混じった何とも言えない笑みをこぼす。

「今日も、今も、すぐに過去になる。
今日から始める過去は、俺と共有できるだろ?

そのドーナツを食べ終えたら、俺に感想をちゃんと報告する事。
美味いを100回でもいいぞ。
OK?」

凛様は本当に世間知らず…
こんな訳ありの気の強い女に優しくするなんて。

私は笑顔で頷いた。

凛様の魅力…
山本さん達のハートになる瞳の理由が怖いほどに分かり始めて、それが何だか怖かった。



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