シンデレラは騙されない


私が斉木家で暮らすようになって五日が過ぎた木曜日の夜、ちょっとした事件が起こった。

事件と言えば大げさだけど、でも、私の中では完全な事件だ。

私は早くこの家の生活リズムに慣れるように、星矢君のペースに合わす事を優先していた。
会社の仕事を終えて、遅くても夕方の6時半までには家へ帰ってくる。
それは、ナニー役の山本さんと交代するため。

星矢君のお父様の博史専務の帰りは大体夜の9時頃で、会長に限ってはその日その日で時間が定まっていない。

会長の旦那様、HAKASEの系列グループで貿易会社を営んでいる星矢君のおじい様は、会社が横浜にあるため、平日はその近くのマンションに住んでいるらしい。

立派な家に住んでいるけれど、子供の星矢君にとってはちょっと可哀想なこの境遇。
星矢君が可愛くていい子なだけに寂しい思いだけはさせたくないと、私と山本さんは同じ想いを共有して仕事に取り組んでいる。

でも、その前に、凛様なんですが…
あの日以来、お目にかかっておりません。



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