シンデレラは騙されない


秘書の方は私を会長室の中へ押し出すと、お辞儀をしていなくなった。
私もとりあえず丁寧にお辞儀をして、その会長のいる応接間へ歩いて行く。

……手と足と同じ動きをしてないよね?

私は歩きながら恐る恐る自分の動きを確認した。
いちにいちにとぎこちないが、一応は普通の動きをしている。

「促進販売部の麻木麻里さん、お待ちしてました」

会長は素敵な笑顔のマダムだった。
歳は65歳で、35歳の娘と26歳の息子がいる。それはこの会社に勤めていれば誰でも知り得る情報で、会長兼代表取締役社長、そして会長の右腕として、いつも娘婿の専務が近くにいた。

そう、今も、遠くにその専務が立っている。
優しそうな顔をしているけれど、何だかちょっと怖い。まるで、私を値踏みしているみたいで。

「そんな緊張しないでいいのよ。
そこに座ってくださいね。

麻木麻里さんって、可愛いお名前ね。
麻っていう漢字が名前に二個も入ってて、綺麗な名前…」



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