シンデレラは騙されない


私は背筋がピンと伸びた。

「何でしょうか…?」

会長は小さく息を吐いて、私に優しく笑いかける。

「そこまでして働く理由は何?
あなたの若さだったら、今のお給料でも十分に足りていると思うんだけども。
住込みをしてまで働きたい理由を、よかったら教えていただけないかしら?」

私も大きく息を吐いた。
それは、誰でも疑問に思う事。
会長の人柄を前にして、嘘はつきたくない。

「私の両親は私が18歳の時に離婚しました。
父の浮気です。母は逃げるように父の元から私達を連れて家を飛び出しました。
そのため、父から養育費はほとんどもらっていません。
でも、母の収入は微々たるもので、私は奨学金をもらって何とか大学を卒業しましたが、それでもまだその奨学金の返済に追われています。

今年は、年の離れた弟が大学受験になります。
彼の夢を叶えるためには、絶対に大学に行かせてあげたい。
でも奨学金は使わせたくないんです。
返済の厳しさを私が身に沁みて分かっているので…」





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