シンデレラは騙されない
私は大きなスーツケースを持って、会長の家の最寄りの駅に着いた。
超高級住宅街のこの街は、駅前も何だかセレブ感満載でちょっと居心地が悪い。
私は駅から18分という微妙に遠い距離に少しため息をつく。
スマホに住所を登録して、似たような立派な豪邸が多い街並みを歩き出す。
実をいうと、私はかなりの方向音痴だった。
スマホとにらめっこをしながら真っ白い豪邸目指して歩くけれど、どれもこれもが真っ白な豪邸で私の頭はパニックになっている。
こんな時は誰かに聞くのが一番だ。
私は、私の後ろをずっと歩いている人がいる事に気付いていた。
さりげなく後ろを振り向き、その人がどんな人が確認する。
若い男だった。それもギターケースを担いで朝っぱらからサングラスをかけている。
この街並みに似合わないその男は、この街の事を知っているのかな?
でも、そんな事言ってられない。
約束の時間は刻々と迫っている。
私は急に振り向き、その男の前に立ちはだかった。
「あの斉木峰子様のお宅を探しているんですけど…
どこか知ってますか?」