シンデレラは騙されない
ある夜、私が星矢君を寝かした後に、専務にリビングへ来るように呼ばれた。
今日は会長は出張で家には居ない。
私がリビングのテーブルに着くと、専務がコーヒーを淹れて待っていた。
「ごめんね… 疲れているのに」
専務は非の打ちどころがないくらいに、全てが洗練されている。
高身長、高学歴、そしてハーフのような整った顔立ち。
綾さんの旦那様として、斉木家の婿として、専務は完璧に自分の立ち位置を理解していた。
私は肩をすくめてコーヒーが置いている場所に腰かける。
専務は私を見て、無理に笑ってくれた。
「凛太朗君の事なんだけどさ」
私はドキッとした。
別に悪い事をしたわけじゃないのに、心臓がバクバクと騒ぎ出す。
「何かあった?
聞いた話だと、麻里ちゃんの部屋でお酒を飲んでたみたいだし」
私は嘘をつく事は嫌いだ。
でも、あの夜の事を、私自身何が起こったのか理解不能なのに、専務にどう説明していいか分からない。
でも、答えないわけにはいかなかった。