シンデレラは騙されない


「お酒は一緒に飲みました…
でも、それだけです。
凛様がアメリカで過ごした高校と私が過ごした高校が、偶然に一緒だったって事で、高校生活の話で花が咲きました。
それだけです…」

微妙に違うけど、でも嘘でもない。
私はそれ以上は何も言わなかった。

専務は静かに聞いてくれた。
でも、私の話が終わると、下を向いて目を閉じた。

「凛太朗君はさ…
あんな感じだけど、いずれはこの家をしょって頑張ってもらわなきゃいけない大切な存在で、だから…」

専務の言いたい事はすぐに分かった。
…だから、彼に恋しちゃダメだよ。

「はい、大丈夫です。
専務が言おうとしている事と私が考えている事が一緒なら、それは本当に大丈夫です。

そんな恐れ多くて、凛様に恋なんてしません。
そんな事絶対にないですから、心配しないでください」

私は笑顔でそう対応した。
心が違うと叫んでいても、それは無視すればいい。

あのキスも、あの夜も、凛様が忽然といなくなった現実にもう負けてしまいそうで、凛様の甘い言葉も、甘い匂いも、本当の夢物語として私の記憶から消えようとしているから。





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