シンデレラは騙されない
我が家でのんびりと過ごし少しだけ元気になった私は、また気持ちを入れ替える。
そんな私の様子を心配して見ていた母が、ため息をついてこう囁いた。
「麻里…
無理しなくていいのよ。
お金は何とかなるから、もうそんな住み込みでバイトなんかしなくていい。
会長様にはママからもちゃんとお詫びをするから、麻里は家へ帰っておいで」
「ママ、違うの…
斉木家の人達は皆優しくて素敵な人ばかりで、誰一人嫌いな人なんていない。
これは…
これは、私の問題なの。
久しぶりに好きな人ができちゃっただけ。
恋をしたら、落ち込んだり悲しんだりがつきものでしょ?
斉木家のバイトは何も関係ない。
だから、心配しないで…」
母は目を丸くして驚いている。
ここ何年の間、恋をする事を忘れていた娘を、それはそれで心配していたから。
「その相手の方は、同じ会社の方なの?」
私は小さな声でうんと言った。
同じ会社の方…
それは間違いないから。
そして、私は三日間の休息を終えて、また白亜のお屋敷へ向かった。
私の中の凛様への気持ちに、がんじがらめの鍵をかけて。
そして、使用人とお坊ちゃまという変わる事のない二人の間に太く真っ直ぐな線を引いて。