シンデレラは騙されない
突然振り返った私に全く動じる事ないその男は、逆に私の事をジッと見ているみたいだった。
サングラスのせいであまりよく分からないけれど。
一見、ミュージシャンに見えるその男は、絶対ミュージシャンなのだろう。
だって、かけているサングラスは黄色のような変な色だし、髪もわざとかあえてかボサボサのツンツンだし、細身のジーンズにユーズド加工の革ジャンを着て面倒くさそうにしているから。
私は中々答えないその男を横目で見ながら、スマホで時間を見る。
……マジでヤバい。
知らないなら知らないって早く言ってくれればいいのに。
すると、その男がゆっくりと私の顔を覗きこむ。
「斉木峰子?
その人なら知ってるよ。
あの化粧の濃い若作りに必死なおばさんでしょ?」
私は唖然としてその男を見た。
「行くぞ」
私のスーツケースを勝手に奪ったその男は、意気揚々と私の前を歩いて行く。
「あ、あの、その斉木さんの家を知ってるんですよね?」