私は強くない
都築とまた飲んでいた。

「話したよ、倉橋と」

「そうか、なんか言ってたか?」

「いや、お願いします。ってだけな」

「まぁな、この間、常務には一応話はしたんだけどな。人事に関しては。またお前の方にも常務から話があるはずだから、その時は頼むわ」

「分かった。ありがとうな、都築」

「なんでお前から礼を言われなきゃいけないんだ?」

「え?あ…」

俺の顔見ながら、ニヤニヤとしている。誤解されてるのか、誤解?なんの誤解?
混乱していると、

「お前も長いよな、いい歳してさ。片想いが長いんだよ」

「な、なに言ってんだよ。倉橋の事は、そんなんじゃねーよ!」

「ふーん、俺、倉橋とは言ってねーけど?」

…っ。
図星だった。
気付かないようにしてたのは、俺自身か。
あいつが、倉橋が俺の下で働いている時からの気持ちに。

「常務の話ぶりじゃ、通りそうだからさ、今回の人事。楽しみにしとけよ?」

「ありがとな」

「何年お前の同期、やってると思ってんだよ」

同期として、長年やってきたからこその呼吸と言うものか。
都築には、本当に頭が下がる。

「ただな、都築。俺の片想いは永遠だろ?倉橋には相手いるからな」

それを聞いた都築が、口の端を上げた。

「お前分からないか?倉橋、多分な別れてると思うぞ」

「え?え?」

含笑いをしながら、続ける。

「先に言っとくぞ。これは、俺の直感だから、信用はするなよ?ここんとこ、倉橋の様子がおかしいんだよ。明らかなんかあったなあれは、お前も思い当たる節はあるだろ?」

「ないとは、言えないけどな…」

「ま、後は本人に聞いてみろ。40にもなるお前の恋愛まで、面倒見る気はないからな」

笑いながらいつもの調子で話をする都築。
うん、そうだなと上の空で話を俺は聞いていた。



都築と別れた後、電車に乗ろうと駅までの道を歩いていて誰かとぶつかった。
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