私は強くない
ここどこだろう?
ふわふわする。
なんか気持ちいい。
膝の裏と肩にかかる、暖かい手が心地よかった。
耳に届く、ドクンドクンとした音も心地よかった。

誰かに抱っこされてるような感じ。
こんな感覚、久しぶりだな。
あれ?
私、名取課長と飲んでたんだ、って事は…目を開けた私の前に、名取課長の顔が…

「な、…名取課長、す、すみません」

慌てて、そこから降りようとした。

「わ、あ、危ないって、倉橋」

名取課長が、しっかり身体をガードしているから、落ちこそはしなかっけどバランスを崩してしまいそうになった。

ちょっと、待ってと言いながら、ソファに降ろしてくれた名取課長。

「すみません…」

「酔っ払いが。大変だったんだぞ?」

「本当にすみません、か、帰ります!」

「バカ、終電とっくになくなってるよ!とりあえず、落ち着け」

友達に醜態さらさず、会社の上司に晒した上に、お姫様抱っこされるとか、ありえない。
穴があったら入りたい、とはこの事よね。
多分、飲んだからではなく、顔が真っ赤になってるはず。

「はい」

そう言いながら、ペットボトルに入ったミネラルウォーターを渡してくれる。

「すみません、重ね重ね」

しきりに恐縮する私に、

「俺も飲ませたから、悪いんだがな。お前そんなに弱くはないだろ?強いだろ?」

ビクッ

聞きたくない言葉

『強い』

その言葉に反応してしまった。

飲んだ水が、頭をスッキリさせてくれた。
現実に戻された気がした。

「いつもの飲み会じゃ、あれくらい平気だったろ?なんかあったのか?悩み事か?」

お酒が強いか。
そこでも、私は強いのか。

また思いだしいた。

今日の事。
拓真の事を。

「ちょっと、寝不足だったんで、酔いが早くに回ったんですよ。ほんと、お騒がせしました。タクシー呼んで帰りますね」

限界。

そう言いながら立ち上がり、荷物を持って帰ろうとする私の腕を掴んだ。それと同時に、私は名取課長の胸の中にいた。

「な、なんで」

「…っ、強がるな」

「…え…」

「俺だって、そこまで鈍感じゃないよ。泣きたい時ぐらい、声に出して泣いていいんだよ」

「うっ、うっ…」

「倉橋、楽になるんだ。俺しか聞いてないから。大丈夫だから…」

糸が完全に切れた。
私は、名取課長に抱かれながら思い切り泣いた。声を上げて。
名取課長は、何も言わず、ずっと頭を撫でてくれていた。そしていつの間にか意識も手放した。
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