私は強くない
泣き疲れて、眠ってしまった倉橋を腕に抱いたまま、ベッドで一緒に眠ってしまった。

あまりの愛おしさに、眠ってしまっているのをいい事に、倉橋にキスをした。
腕の中で、眠る倉橋を見ながら思う。
営業部に配属されてから、仕事熱心でよくやってたな。
ただ、理不尽な事があった時は、他の奴らは知らないが、俺は倉橋が泣きそうになっているのを何度も見ていた。手をぎゅっと握って、我慢しているのを。
そう言う面では、倉橋は強いのかもしれない。でも、本当は弱いんだ。
こんなになるまで、我慢していたなんて。倉橋をさらに強く抱きしめた。

「…う、う…ん」

腕の中で、倉橋が規則正しい寝息を立てて眠っている。

このまま、ただの上司に戻れるか?
もう戻れない、倉橋の寝顔を見ながら再確認する。
眠っている、倉橋にキスまでしてしまった。
柔らかいその唇に、キスをした時、俺は倉橋への気持ちを止める事が出来ないと確信した。
男と別れたなら、フリーになったなら許されるだろう。弱った倉橋につけ込む事はしたくないが、少しでも倉橋が元気になれるんだったら、一緒にいてあげたいと思う。傷が癒えたら、俺を男として見てくれたらいい、と思った。

都築に、いい年したオッさんが何やってんだ、って言われそうだな。
そんな事を考えながら、俺も再び眠ってしまった。



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