私は強くない
そこにいたんじゃないの。
嘘。

「いるんだろ?開けてくれよ」

開錠ボタンを押した。

もしかして、名取課長に送ってもらったのも見たかも。もしそうだったら、名取課長にまで迷惑をかける。


ピンポーン

玄関を開けると、拓真がら立っていた。

「なんでこんなに早いんだ?って思ってるんだろ。朝帰りか」

「関係ないでしょ。拓真には。早く荷物持って帰ってよ!」

バンッ!

ビクッ
思い切り、壁を叩いた拓真に恐怖を感じた。
誰、この人。
私の知ってる拓真じゃない。

「なぁ、浮気してたのって、俺だけじゃないだろ?さっき見たよ。男に送ってもらってただろ?あれいつからだ?誰だよ?」

「………っ」

自分の事を棚に上げて、何言ってるの。
でも、名取課長を見られた訳じゃないんだと、安心した。

「何、安心してんだよ。いつからだって聞いてるだろ?」

「拓真には関係ないでしょ、あなたとはもう終わってるじゃない。私が誰と付き合おうと関係ないでしょ!」

「か、関係ないだって?自分だけが被害者ぶってんじゃねーよ!こうなったのもお前のせいでもあるんだろ!」

私も悪い?
そう言えば、恋愛は片方だけが悪いんじゃない、お互いに何かしらの原因があるって誰かが言ってたっけ。

「黙ってんじゃねーよ!」

拓真の声が、遠い。

「…むかつくんだよ、その態度が。お互い相手がいるんなら、いいよな?体の相性はよかったんだから、このまま関係続けようか」

その場から逃げようとした、私の腕を掴み壁に押さえられた。

「え、嫌っ。やめて、拓真」

両手を押さえられ、耳元で話を続ける。

「知らないで、この間まで俺に抱かれてただろ?お前の体は知ってるんだぜ?どこがお前が気持ちよくなれるって…」

いつしか涙が頬を伝っていた。
こんな人を3年も好きだったんだ。
結婚したいって思ってたんだ。

もう、ダメ。

諦めかけた時、チャイムが鳴った。

一瞬ひるんだ拓真を押しのけて、開錠ボタンを押した。

「っ痛…慶都、お前」

ガツン
強く床に押し倒され、頭を打ちつけた。

早く来て、
お願い。

「倉橋!」

あぁ、名取課長来てくれた…んだ。

その瞬間、私は意識をなくした。
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