私は強くない
名取課長の腕の中が、心地よくてこのままでいたいと思った。

顔を上げると、名取課長が優しく見つめてくれている。私は目を閉じた、そしてキスをした。

「倉橋…」

「名取課長…」

名取課長の胸に置いていた、両手を首に回した。
私がそんな事をするとは思ってなかったようで、名取課長は驚いたようだったけど、さらに私を強く抱きしめ、再びキスをした。

今度は触れるだけのキスじゃない。
お互いに口を開けて、舌を絡み合わせた。

角度を変え、何度も何度も。

お互いの息が上がる。

名取課長とこのまま…

首筋に、名取課長が激しく唇を這わせる。

「倉橋…」

吐息が漏れた。
こんな声を出すなんて、恥ずかしい。
でも、このままこの人に抱かれたい、と思った。

名取課長が私の上着の中に手を入れた、その時だった。


ピンポーン


はっ


「っ、はい」

私は、乱れた服を整えながら、モニターを確認をした。

「美波です。お邪魔でした?」

「え?…あ、開けるね」

すぐに開錠ボタンを押す。

「木村か?」

私と同じように、身なりを整えている名取課長が聞いてきた。

「は、はい」

「その、…」

目が見れない。
恥ずかしくて、顔から火が出そうってこの事なんだな。

「倉橋、顔赤いぞ」

「えっ」

「名取課長も、顔真っ赤ですよ」

2人で顔を見て笑っていた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。

玄関を開けると、荷物を下げた美波達が、

「やっぱり、お邪魔でした?」

なんだか、楽しそうに笑っていた。

「な、何がよ!荷物ありがとうね」

きっと、美波達には何してたのかはバレてるんだろうな、と思いながら荷物を受け取った。

リビングに一緒に戻ると、もういつもと変わらない名取課長がそこにいた。

なんで、普通でいられるかな。
さっきまで顔真っ赤だったのに、さすがと言うか、悔しいと言うか。

「ご苦労様。悪かったな、どうだった?奥菜」

こんな時でも、ちゃんと労いの言葉をかけてくれる名取課長。
変わってないなぁ、こう言う所好きだったんだよね。
って、そっか、私…。
この時、自分の気持ちに気がついた。

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