私は強くない
「…名取課長」
「ん、なんだ?金谷」
「キレたんですか?拓真に」
「な、なんだ、いきなり」
キレた?
名取課長が慌ててる。
私の部屋に、入ってきた時の名取課長は焦ってたって感じだったけど、
「ね、慶都さん」
「え?どうしたの?美波」
「名取課長、めっちゃキレたらしいですよ。奥菜、会社に行けないってビビってましたもん」
「ほんとに?」
「どうしよう、って陽一に泣き入れてましたよ。…で、名取課長どうでした?」
「そうなんだ、キレてる名取課長なんて想像できないな、怒られた事はあるけど…」
「そうじゃないですよ。名取課長と…」
「や、な、何言ってんのよ」
さっきまでの行為を思い出して、両手で顔を隠した。
「ま、名取課長だったら、安心ですけどね」
含み笑いをしながら、私を突く美波。
当分これでからかわれそうだ。
「名取課長、そんなに凄いんですか?」
「ち、ちょっと何聞いてんのよ、美波」
慌てて止める私に、
「ん?キレた事ですよ?」
「あ、…」
やられた、美波の方が上だわ。
もう恥ずかしくて顔上げれない。
「んー、金谷も木村もそう言うけどな、俺キレてはないぞ、奥菜に冷静に言っただけだぞ?」
「名取課長、その冷静が怖いんですよ。俺が、まだAGにいた時、みんな噂してましたよ」
「なんのだよ!」
「そうなの?私、それ知らない」
「美波は人事部だろ。営業部じゃ有名な話だって」
「私も聞いた事ないけど」
「慶都さんは、注意されてなかったじゃないですか、俺達キレた名取課長見てますから」
「嘘…」
「おいおい、そんなに怖いか、俺?」
名取課長は、納得がいかないのか、首をかしげていた。
金谷君が続ける。
「俺一回だけ、見た事ありますよ。あれは確かに、怖い。冷静過ぎるんですよ、本気で怒ってる時の名取課長って、顔に出てますし」
「俺はそんなつもりないんだけどな」
「名取課長、あい…拓真になんて言ったんですか?」
「…ん?俺が冷静で帰れって言っている内に帰れ!かな?」
「…名取課長、そりゃ拓真もビビるはずです。俺でも泣きそうですよ」
「なんでそうなるんだ」
「いや、分かります。拓真、相当きてるんで、慶都さんには手出さないですよ」
「そうなのか?それだったら安心だけどな?倉橋」
「…はっ、はい」
本気で怒る名取課長って、想像出来ないんだけど。
その日、3人は私の家に泊まっていってくれた。