私は強くない
「ごめんね、美波。せっかくの土日。こんな事でつぶして、出かける予定だったんじゃない?」

「そんな事ないですよ。慶都さん。何しようか?って家でゴロゴロしてただけですから。来年。結婚でしょ?無駄使い出来ませんからね」

私はベッドの上で、美波と話をしていた。
来年結婚かぁ。

「美波、結婚だよね。こんな風に泊まってくれるのも、なくなっちゃうよね、なんか寂しい」

「何言ってんですか!結婚しても来ますよ、私」

「ありがと」

社内で、同性でこんな風に分かり合える人と知り合えるとは思っていなかった。美波は年下、後輩なのに。
美波がいてくれて、どれだけ心が救われたか、

「…で、どうなんです?名取課長と」

美波との出会いに、感謝していると、いきなり突っ込まれた。

「な、何言い出すの?」

「いやーん、慶都さん。顔真っ赤ですよ。好きなんですよね?名取課長の事」

「もう、年上をからかわないでよ。私だってどうしていいか、分からないんだから」

「私はいいと思いますよ。慶都さん、
もしかして、まだ奥菜と別れてそんなに時間経ってない事気にしてますか?」

図星だった。
好きだ、と気がついても、その気持ちに正直に動いていいのか、どうか分からなかった。

拓真に「俺と一緒、二股かけてたんだろう」って、言われて名取課長に対して、もしかしたら、心の中でそんな気持ちがあったんじゃないか、名取課長だって、失恋したての女にすぐに、好きだって言われたって、困るだろうって。もしかしたら、名取課長も部下を心配する延長なのかも、と。

「…思ってしまうのは仕方ないじゃない。もう35よ、私。いい年してさ。名取課長だって、部下を心配する延長かもしれないじゃない。迷惑かも。私じゃない相手がいるかも、名取課長だし、モテるし」

「何、自信喪失してるんですか、慶都さん!奥菜の奴、どこまでクズなのよ。慶都さんをこんな風にして!」

美波が憤慨していた。

「だって…」

「だってじゃないです!いいですか、名取課長だって38ですよ?世間一般ではオッさんですよ?あの年でオッさんって言われないのは、名取課長がイケメンだから。モテるから。けど38にもなって浮いた話聞いた事あります?女の子お持ち帰りした話聞いた事ないでしょ?」

「 ないです」

美波、あまりオッさん、って連呼しないで。

「誠実でフリーな男、じゃないですか!部下だからってだけで、ここまですると思います?あんな風に慶都さんの頭撫でてくれた人います?」

あ、

「私、陽一がいなかったら、名取課長の事好きになってしまってましたよ!」

美波に言われて心が軽くなった。
好きだと、言っても誰にも咎められない。
いいんだ。

「ありがとう、美波」

「何泣いてんですか!今日は私の胸、この大きな胸、陽一専用ですけど、貸してあげますから、今度からは名取課長に貸してもらって下さいね」

「うー、美波ぃ」

子供が泣くように私は、美波に抱きついて泣いていた。

私は、周りの人に恵まれている。

そう、思った。


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