私は強くない
「じゃ、次の人事に関しての事は、まだ公にはしないように」

課長が帰ってきてから、慌ただしく始まった会議も7時を回る頃に無事終わった。

また人事異動かぁ、重いなぁと思いながら、片付けしていると課長から声がかかる。

「倉橋も来るか?今からみんなで飲みに行くんだが」

「すみません、これから用事が、あるんで帰らないといけないんです」

都築課長達と飲みに行ったら最後、帰れるのは何時になるか分からないのは経験済みな私。すぐさま断りを入れた。

「そうか、じゃ気をつけて帰れよ」

「はい、片付け終わったんで、上がりますね。お疲れ様でした」

頭を下げて、慌てて更衣室に向かう。
上着に手を通しながら、器用に拓真にLINEからメッセージを打つ。

『今終わったよ。今会社出るから30分ぐらいしたら家に着くかな。食事どうする?』

駅に向かう途中、拓真からの返信があった。

『食事はいいよ、俺も今からそっち向かいます』

食事いいのか、
食べなくていいのかな、
飲みながら話かな?まさか…

そんな事を考えていると、最寄りの駅に着いた。
マンションに慌ただしく帰った私は、拓真が来る前にと軽く冷蔵庫の中の物で食べれる物を作る。

軽く何か、つまめたらいいかなと、そんな事を考えながら。

ピンポーン

チャイムが鳴り、訪問者が誰なのかを確認してから、オートロックを解錠する。
もうすぐ上がってくる。
慌てて鏡を見て、お化粧直しをする私。
玄関のチャイムが鳴り、開けるとそこには、いつにもなく真剣な表情の拓真が立っていた。

「いらっしゃい、どうぞ」

黙ったまま部屋に入っきた拓真に

「何か飲む?ビールかワインならあるけど、軽い物なら今作っ…」

「何もいらないよ、話がある」

私の言う事を最後まで聞かず、拓真は俯いていた顔を上げた。

なんだろう。

変な感じがした。

今、拓真の話を聞いちゃいけない感じがした。

慌てて、目をそらす私。

「慶都、話を聞いて」

「なに?どうしたの?そんな真剣な顔して、怖いよ、拓真、とりあえず座ろう」

拓真の様子からして、プロポーズとかと言うモノではないことをさっしてしまった私は少し、おどけてみせることしか出来なかった。
拓真をソファに座らせて、どう話をそらそうかと考えていると、

「慶都、俺と……」

え、え?

結婚なの?

「拓真……」

私の勘違いだったのかと、思おうとした時だった。


「ごめん、慶都。別れてほしい」


……………。


思考が止まった。


拓真?
何を言ったの?

別れてほしい?

言葉にならない、声が出てこない、

そんな私を見て、苦い顔をしながら拓真は続ける。

「勝手な男だと思う。自分自身、慶都と結婚をしようと思ってた、けど……」

言葉に詰まる。

結婚しようと思ってた私と別れようと思うのが、分からない。

「……な…な…どう…して」



< 5 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop