私は強くない
名取課長!

見られた。
見られたくなかったのに、一番見られたくない人に、見られた。

名取課長もビックリしていた。

動けなくなってる私の肩を、持とうとしている拓真の頬を引っ叩き私はその場から逃げた。

私は汚れてる。
キスされた唇を何度もハンカチで拭いていた。

「汚い、油断してたからって…キスされるなんて…」

「倉橋…」


逃げた私を追いかけてきた、名取課長。
泣いている私を背中から、優しく抱きしめてくれた。


「ごめんなさい。名取課長、私、わたっ…」

「もういい、喋らなくていい…分かってるから」

どれくらい、そこいたんだろう。
名取課長は私が泣くのを止めるまで、抱きしめてくれていた。


「もう、泣いてないか?」

「すみませんでした。もう大丈夫です」

「顔見せて」

「嫌、今は見てほし…」

見てほしくない、と言おうとした口を塞がれた。名取課長に。

「消毒。ありがちだけどな」

「な、名取課長…」

「ほら、もう一回。今度はちゃんとな」

そう言って深いキスをした。



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