私は強くない
「ちょっと待ちなよ…」

「え?」

「そんだけ、好きなんでしょ、奥菜の事。私だって、鬼じゃないわよ」

「…美波…」

美波は分かってくれたようだった。

「だけど、傷つくのは目に見えてるんだよ?それ分かってるの?」

「私もそれは言ったよ。拓真、私と付き合ってて、浮気したんだから。またするよ、って。圭輔さん、どう思いますか?」

「…え?俺か?参ったな…。俺は浮気なんてしないぞ?慶都一筋なのは、お前らも知ってるだろ…」

え…
圭輔さん、こんなところで、恥ずかしい…

「あ、すまん。いや、世間一般的に一回やったら、多分2回目はあるぞ。絶対浮気しないは、1回した奴が言っても無駄だからな」

「俺もそれは思いますよ。ましてや、今回の拓真を見てると、またやりますよ。それでもいいの?」

黙って頷いた香里だった。

「…わか、分かってるんです。また同じ目に合うんだろう、って。でも、自分に区切りがつけられないんです。どうしたらいいのか…」

「って、言うことなの。皆んなに聞いてもらいたかったのは、ここなの。拓真には、私から話は出来るけど、皆んなにも拓真を説得してほしいの。謝るにしろ、浜口さんにケジメつけろ、って。放置は酷すぎるよ、ホントなら人間として、二度と立ち直れないぐらいにやってやりたいけど、ねぇ?ダメでしょ。さすがに」

「…あ、ヤバい…」

美波がボソッと呟いた言葉を圭輔さんが聞き逃さなかった。

「木村、何がヤバいんだ?」

「あ、あ、慶都さん、あれ言ってしまったら、本気でやりますよ。一回だけ、本気で怒ってるの見た事あるんですけど、やられた側は立ち直れない、ですよ。マジで」

「そ、そうなのか?見た事ないぞ?」

「人事部でそれで、1人辞めてますよ。覚えてないですか?」

「…あ、そういえば…」

「それ、です」

「名取課長も、マジ切れしたら怖いじゃないっすか。慶都さんより怖いかも?」

「え?ホントに?陽一」

「お前らなぁ…」

どうやら、私と圭輔さんは怖いらしい、そんなつもりなんてないのに。

香里はどうしていいのか、迷っているようだった。

「浜口さん、安心して。ちゃんと話する機会は私達が作ってあげる。そのあとは頑張る事ね。それでまた、人でなしになったら、この4人がキレるから」

奇妙な関係が、出来上がった瞬間だった。
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