私は強くない
「やっちゃった…」

「…おい、美波。あれほんとに慶都さんか」

「うん、慶都さん。マジギレしたら止められないよ。あれ見たの久しぶり」

「俺、見た事ないや」

「俺人事部で見たわ」

「橋本は見たよね、止められないでしょ?」

「おぉ、ムリだな。あん時よりもそらにパワーアップしてないか?」

「してるよね?やっぱり…」


一気にまくしたてた私は、少ししてヤバイと思った。
久々にやってしまった。

あちゃー。

黙っていると、柏木部長が静かに話を始めた。

「倉橋君の言う事が正しいなら、これは問題だね。プライベートまで詮索する気はないが、プライベートに問題のある人間に社内に残ってもらっても、また問題を産むだけだからな。この事は俺に預からせてくれるかな?」

「あ、いえ。別に私は会社を辞めさせたいとかは思ってませんから…」

どの口が言ってんだよ、姿消せって言ったくせに、と自分で突っ込んでみる。

「倉橋、ここは柏木部長に任せよう、な?俺も奥菜は問題あると思うがな」

「都築課長…」

「慶都さん、任せましょう?」

「そうですよ、慶都さん。俺、AGの人間じゃないけど、柏木部長に任せた方がいいですよ、な?涼も思うだろ?」

「あ、あぁ。倉橋係長、まだ優しいですよ。俺だったら会社辞めろ!って言ってますね」

もう、仲の良かった同期はそこにいなかった。

「香里さん、ごめんなさいね。こんなゴタゴタに巻き込んで、あなたの事はまた相談に乗ってもらったらいいけど、あなたの彼氏って言う人も同じかもしれない。よく見極めた方がいいわよ」

「…え?」

私は、香里に合図した。
この事には関係ないから、と。
これに巻き込んではいけない、そう思ったから。


「今度の人事で考える事としよ…」

「あのっ、…」

「ん?どうした?香里。倉橋の言うように、お前の彼氏の事も考えないとな」

「あのっ、違うの、叔父さん」

「何が違うんだ?」

「す、すみませんっ!柏木部長や都築課長が言うように、男として最低な事は認めます。会社を辞めろと言うなら、や…辞めます」

拓真は、香里の発言を遮るように、自分の事を認め、辞めるまで言い出した。
香里に言わせない為に…


美波や金谷君もそれに気がついたけどそれ以上何も言えない、口を出してはいけないと。それは私も同じだった。

沈黙を破ったのは、香里本人だった。



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