――桐島くん。


「ち、違う。これは……」

彼が不自然に目を泳がせた。


「違うって?キスしてるのに?」

肩を寄せ合って何枚も、何枚も。お互いに私服姿だから学校の外だろうか。女の子のほうは黒いフードのついたパーカーを着ていた。


「向こうが勝手に言い寄ってきたんだって。ほら、先月の練習大会の時に男子バスケの助っ人として呼ばれた時があっただろ?あの日から妙にひっつかれてて……」

「へえ」

「い、一回デートしてくれたら諦めるって言われたんだ」

「じゃあ、なんでキスするの?」

「思い出がほしいって……。でも、本当にキスをしたのはこの日だけだから信じてよ!」


彼はたぶん、病気だ。言い寄られたら拒否できずに浮気してしまう病気。

そして、私は……慌てる彼を見るのが楽しい病気。


私は、彼の首輪をそっと外した。約2週間ぶりに自由になった彼は私から逃げようとはしない。


「メイコ……」 

それどころか、彼は鎖を外した私に感謝するような瞳を向けていた。

彼のことは、許す。だけど、彼の隣に居座ろうとする女は許さない。私はもう一度、キスの写真を彼に見せた。


「ねえ、私のこと好き?」

「もちろん、すげえ好き!」 

その言葉に、私はクスリする。そして……。




「じゃあ、〝チエミ〟のこと傷つけてきてよ」



キスのツーショット相手は、チエミだった。

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